続・久保田早紀

オーダーメイド・ファクトリーで発売決定となった久保田早紀
アルバム3枚。『見知らぬ人でなく』(82年)『ネフェルティティ』(83年)
夜の底は柔らかな幻』(84年)が家に届きました。
購入希望者が500人集まると制作されるというオーダーメイドシステム。
今回それを感じられたのは『夜の底は柔らかな幻』の歌詞カードの
頁をめくった時でした。何ともいえない印刷の匂いが鼻をついたんです。
「ああなるほど、この匂いはまさにオーダーメイドの匂いなんだなあ」
と妙に感心してしまいました。
80年代前半当時のリスナーから全く評価されることもなく、注目される
こともなく、ミュージックシーンの片隅でひっそりと傑作アルバムを作り
続けた彼女。結局合計7枚のアルバムを出した後に、彼女は引退コンサート
を開いて引退してしまいます。
その時のビデオを見たことがあるのですが、その時彼女は「久保田早紀
さんにもお疲れさまでしたといいたい」と語っているのですね。デビュー曲の
超特大ヒットによって、”「異邦人」の久保田早紀”というパブリック
イメージができあがってしまい、そのイメージとは実像とまた別の、
自分自身ではどうにももてあましてしまうものだったに違いありません。
「オレンジ・エアメール・スペシャル」で彼女はこう歌っているのです。
♪憂鬱な可愛い女だなんて そんなのあなたの買いかぶり〜
と。その後の彼女は自分の創作意欲に忠実に、ストイックで孤高で、でも
だからこそ美しい作品を3枚生み出しました。
いまやキリスト教の宣教師として賛美歌を歌う彼女にとっては、この頃の作品など
多分過去の産物でしかないのでしょうか。
かく言う自分も、彼女の隠れた傑作たちの存在を知ったのはまさに世紀末に
なってからでした。だから、「待ちつづけてやっと願いがかなえられた」
なんてことは言えないのですが、とにかくこの傑作が世の中にひっそりとでも
再生したことは嬉しく思っているんです。まさに震えるほどすごい傑作アルバム
たちですよ。